2017年3日15日

「みんなの夢を乗せた船」

今回のツアーは、都市ごとに気候が変わる。
シアトルは冬、ロサンゼルスは夏、
そしてモンタナに到着し、また冬を迎えた。
初めてのモンタナ。見渡す限りの雪山。
お迎えの人が来て
「今日あなたたちが行く町は、7500フィートのところです」
と言われる。
町の名前がビッグスカイ、という事と、
そこにある劇場で演奏する、という事だけを知っていて、
そんな高度の高い町という情報は知らなかった。
ピアノが弾けると聞いて、ここまで来ただけなのだ。

「リバー・ランズ・スルー・イット」という映画を撮影したという川沿いの山道を走り、
延々と山を登っていく。
携帯の電波も通じなくなる。
「ビックスカイは人口2300人です」と説明される。
お客さん、来るのかな・・・とシンプルな疑問が頭をよぎる。
そして、到着。スキー場のホテル。
スキー以外の目的で来ているのは、多分私達だけだろう。
目の前に広がる雪山を見て思う。
また、すごい所まで来たなぁ・・・と。

ライブ当日、とにかく水分補給を心がける。
高度の高い場所では、水分を十分に取らないと、
高度慣れしていない人間は、体調を崩しやすい。
イベンターさんが迎えに来た。
劇場のシリーズに呼ばれる場合、
ほとんどのお客さんは、そのシリーズを信用し、
何度もリピーターとして戻ってくる事が多い。
評判のいいシリーズを作るイベンターさんは、芸術監督のようなもので、
その監督のテイストをみんな信じて、
アーティスト自身をよく知らなくても、お客さんはチケットを買う。

そもそも、どうして、ここに私達を?と監督に聞くと、
「僕は、10年前からひろみの大ファンでね。
ここにはスキーしかないだろう?
でも、ここに住んでいる人は、みんな大自然が好きで、冒険が好きだ。
だから、音楽で感じられる冒険を、ここの人に経験してほしいんだよ。
きっと伝わると思うんだ。
いつもは、大体クラシックとかバレエとかカバーバンドを呼んでいるから、
お客さんはびっくりするかもしれないね。
今回は僕の個人的な冒険でもあるんだよ。」

しかし、大きな冒険に出たものだ。
この冒険をするために、監督は私のピアノとサイモンのドラムセットを、
この高地まで、はるばるロサンゼルスから運んでくれた。
監督の大きな個人的な冒険が、
吉と出るか、凶と出るかは、私達にかかっている。

会場に着き、監督の友達のピアノの先生に会う。
先生が言う。
「この町で、ヒロミに出会えるなんて夢みたい。
私はポーランドから移住したのだけど、
ポーランドにいる頃から、ファンよ。
私の国にも何度も行ってくれて、ありがとう。
生徒が、ジャズとかよくわからない、って言うんだけど、
ここは先生を信じてって言って、結構生徒がライブに来てくれるの。
夫も、最初は渋ってたけど、説得して、夫の両親もみんなで来るの。楽しみ!」

みんな、キラキラした目で、私に託してくる。

監督が言う。
「こういう町でこそ、僕は冒険をしないといけないと思っている。
山登りと音楽は近いと思うんだ。
勇気を出さなきゃ、新しい景色なんて見えない。
だから、僕は、自分の町の人に、新しい景色を見せたいんだ。
僕が初めてひろみの音楽を聴いた時、僕には新しい景色が見えたから。
みんなに芸術の新しい景色を見せる事が、僕の夢なんだ」
私も、つくづく山登りと音楽は近い、と思って
インタビューでもよくそういう話をしてきたので、
同じ事を言われてびっくりした。

サウンドチェックも終え、本番。
300人の小さな会場がいっぱいになる。
町の人が、どんなものかと集まってくる。
私達がステージに上がる前、芸術監督が、ステージに立って、
このライブをどれだけみんなに見せたかったを話す。
ハードルが上がり続ける。
そして、ステージへ。

数人、ものすごい雄叫びをあげている人がいるので、
その人達は多分モンタナに住む、数少ない私のファンだと思われる。
さて、一曲目。SPARK。会場の緊張感を感じる。
お客さんがここに来る事を選択した事が正解だったのかが決まる一曲目。
目を閉じて、心で思う。

「さぁ、行くよ。一緒に音楽の旅へ。」

高度のせいか、いつもより息が上がる。
気持ちを込めて、弾き切る。
一曲目が終わった瞬間、押し寄せてくる熱気。
よし、みんな船に乗った。
気持ちがひとつになった事を感じながら、さらなる航海へ。

二曲目、三曲目と進むたび、会場の熱量が上がっていく。
最後には、小さな子供も、お年寄りも、みんな総立ちになる。
あぁ、役目を果たせた。
みんなの夢を乗せた船は、無事航海を終えた。

本番後しばらくして、監督が顔を紅潮させて、楽屋に入ってきた。
「みんなに、ものすごく喜んでもらえたよ。
まるで僕が演奏したみたいに、みんなに褒めてもらってね。
本当に、本当にありがとう」

終演後、近くのバーに行き、軽く打ち上げ。
ポーランド人のピアノの先生も来ていて、
「生徒も家族も大喜び!私の株があがっちゃった!ありがとう。」と言ってくれる。

そこのバーで会ったおばちゃんに、突然「ヒロミ!」と両肩をガシっとつかまれ、
ぶんぶん体を揺すられながら、こう言われた。
「私ね、今日65歳の誕生日なの!
それで、さっきあなたのライブを見たんだけど、
本当に65年間生きてきてよかった!
65になっても、まだこんな知らない感覚が、人間にはあるのね。びっくりよ。
本当にありがとう!」
横にいる監督が、こちらを見て微笑む。
そう、これが彼がみんなに体験させたかった冒険なんだ。

ツアーを15年近く回っていて、思う事がある。
ツアーというのは、ミュージシャンだけでできているわけではない。
音楽という冒険パッケージを伝えたいという熱い思いのあるイベンターさんや、
フェスティバルとともに創っていくものだ。
世界中の、素晴らしいミュージシャンに出会える事もとても嬉しいけれど、
世界中の、同じ志を持ったプレゼンする側の人たちと出会える事もとても嬉しい。

ツアーはロールプレイングゲームのようだと思う。
出会いもあれば、別れもある。
いろいろな町に寄り、いろいろな人に出会い、いろいろな事を学び、
音楽の魔法を覚える。
常に前を見て、進んでいくしかない。
そうやって、地図上に、どんどん仲間が増えていく。

「お互い、新しい景色を見るために、リスクを負ってがんばろう!
そして、また一緒に仕事をしよう!」と、
監督と固く誓い合って、バーの外に出る。
冷たい雪風が吹いている。
これから向かうは、ハワイ。今度は夏。
そして有数の観光地であり、お客さんの層も全く違う。
同志を探す旅は、まだまだ続く。

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