2009年5日27日

「ジャズ・イン・ザ・バトルフィールド」

5月22日。ジャクソンビル・フロリダ。雨。
初めて降り立ったこの街で、私は、ステージに上がろうとしていた。
今日は、スタンリークラークトリオの初めてのライブ。
スタンリークラークの作品や、レニーホワイトの作品を、
昔から聴いてきた私にとって、
ステージの袖で、一緒に出番を待っている人たちが、
その人達だという事に、不思議な感覚を覚えずにはいられなかった。

去年の12月にアルバムを作った時は、
確かにスタンリークラークとレニーホワイトというレジェンド二人と、
アルバムを作るという事に、驚きと興奮はあったけれど、
客観視できない自分がいた。
ごく自然に、1ミュージシャンとして、相手から出てくる音に、
全神経を集中し、
どういうアルバムに仕上げたいのか、という、
スタンリーの美意識を大切にしていた。

その後の、いろいろな国の取材で、
スタンリーのアルバムに参加した事を、たくさん聞かれ、
さらに、いろんな記事を新聞や雑誌で目にする中、
やっぱり、レジェンドってすごいなぁ・・・と、
自分がその記事の中にいるのが、不思議な感覚でいた。

そして、初めてのライブ。
確かに気持ちは高揚していた。それは否めない。
いつも、どこでも、ライブには全力投球だが、
言葉では言い表せない何かがそこにあった。
楽屋で、一緒に順番を待ってるのが、スタンリーとレニーなのだ。
確かに、チックコリアも、彼らと並ぶ、大御所のレジェンドだけれど、
チックは、昔から知っているので、
どこか一緒にいても落ち着く何かがあって、
今日のこれは、まったく違う何かであった。

ジャクソンビルという街に来た事は一度もない。
アメリカは広い。来た事のない街には、自分のファンは少ない。
つまり、アウェーの試合である。

レニーホワイトが、リング、いや、ステージに登場。
ものすごい歓声。
そして、私が、登場。
お客さんは、少し面食らっている。
「なんか、ちっこいの、出てきた」
というざわざわ感である。
なんせ、スタンリーが大きいのもあると思うけれど、
このトリオでは、私はいつも以上に小さく見える。
おいおい、大丈夫か?と人に心配されるような、
子供に見えるに違いない。
ざわざわ。
その中で、私の前に陣取ったアメリカ人5-6人が、
「We love you Hiromi!」と助け舟を出してくれる。
ありがとう・・・と思いながら、ピアノに座る。

そして、スタンリーが、ステージに登場。
大歓声。
すごいなぁ・・・培ってきたものが違うなぁ、と思いながら、
今、私、観客じゃないんだな、一緒にこれから演るんだな、
と思った瞬間、熱い気持ちがこみ上げてきた。
多分、背中に文字が浮き出るとしたら、
「闘魂」
と浮き出ただろう。

何かが、自分をブーストさせる感覚。
もう、止まれない感覚。
F1の車がアクセル全開で、スタート地点に立っている感覚。
両手にぺっぺっと唾を吐きたい感覚。それくらいの闘志。

そして、ライブスタート。
すごいドライブ感。スタンリーのベースがうねりを上げる。
それを、レニーが支える。
ライブレポートしている場合ではない。
私は、今、この中にいるんだ。

ここで、私はひとつ気づいた。
随分、CDのコンセプトと違う、という事。
スタンリーの、描きたい絵が
スタジオとライブでは、全く違うと いう事。
もしかしたら、毎回、方向性が違うのかもしれないけど、
今日は、明らかに違う、という事。
ジャズ・イン・ザ・ガーデンというより、
ジャズ・イン・ザ・バトルフィールドといった感じである。
そう来るなら、こう行っちゃうよ、とばかりに、
スタンリーのドライブ感に乗せられていく。
夢中でソロを弾き終わった瞬間、お客さんから聞こえた歓声。
そこからは、無我夢中でよく覚えていない。
途中、「ちょっとソロピアノ弾いて」とスタンリーに言われ、
弾き終わったら、お客さんが総立ちになって、拍手してくれた事と、
スタンリーが、親指をぐいっと立ててくれた、事は、
なんとなく覚えている。
多分、妄想ではないと思う。

ライブが終了して、お辞儀をしたら、
最初ざわざわしていたお客さんが皆、
「ヒロミー!」と声を上げて、みんな総立ちで拍手をしてくれた。
やりきった感覚だった。
「ちっこいの」の反乱は終わった。

アウェーのライブは好きだ。
普段、とても平和主義な私だが、音楽になると、
いかんせん挑戦的になる。
挑戦は大きければ大きい程、楽しい。
何度ぶつかろうが、何度ケガしようが、私は果敢に立ち向かいたい。
ライブで作ったかさぶたは、強い自分を作る。
ジャズ・イン・ザ・バトルフィールド。

翌日の自分のバンドのライブが、ボストンだったのは、
何かの因縁だろうか。
ステージに出てきた瞬間、お客さんが「おかえりー」と叫んでくれ、
ものすごく大きな拍手と感性に包まれ、
「まだ一音も弾いてないのに・・」と、
私はただただ感極まる事しかできなかった。
うんうん、帰ってきたよ。と。
アウェーからホームへ。
そして、その瞬間気づく。
自分をよく知っているこのお客さんの、自分へのハードルは、
アウェーのお客さん以上に、実は高いのだ、という事を。
感極まり出かかった涙が、引っ込む。

そうか、今日も、また挑戦なのだ、と。

PAGE TOP