2009年1日6日

「HAPPY NEW MUSIC」

また、この場所に帰ってきた。
自分との戦いの原点の場所へ。

大晦日の夜、
1999年からデビューするまで通っていた
バークリー音大にあるコンサートホールで行われる、
NPR(アメリカの国営ラジオ放送)主催の、
全米ラジオ生中継ライブに、呼んでいただいた。

私の、昨年末のスケジュールは、
「よくがんばったなぁ」というより、「よくできたなぁ」と
自分で思う程だった。
24日のクリスマスイブに、「今年もあと8日ですね」
というコメントをテレビで聞いた時、
あと8日中、7本ライブがあるという事実に、驚いた。
浜松、名古屋、東京、仙台、東京のライブを終えた後、
30日にレコード大賞に参加させていただいた。
31日のボストンのライブが最初に決まっていた私は、
レコード大賞参加は、時差がなかったら、不可能だった。

今まで、時差ボケに散々悩まされてきた私だ。
前作のアルバムでは、時差ボケの曲まで書いた。
そして、今回、この強敵である「時差」がとうとう味方に着いた。
30日夜、レコード大賞を終え、
31日朝、日本を経ち、13時間のフライトの後、
あら、不思議。
アメリカは、また31日朝。

ボストンは、忘れもしない、スノーストームの街だ。
前々日から、飛行機が飛ぶか心配で、天気予報をチェックしていた。
そこには、堂々と居座る、憎らしい顔の雪マーク。
神頼みしかないと、神社に好天気のお参りに行きたいと思ったが、
これもこのスケジュールの中では、時間がなく、断念。
神様、仏様、うちのだるま、すべてのご利益がありそうな方々に、
出発前日、家でお祈りを捧げてみた。

しかし、神様は見ている。
私が、寺社仏閣に出向く時間がなかった事を知っている。

長時間フライト後、NY到着。
乗り継ぎ案内版を見る。
New York- Boston CANCELLED
フライトがキャンセル。
目を疑う。
ボストンはどうやら大雪らしい。
次々とボストン行きのフライトがキャンセルになっている。
キャンセルになっていないものもあるが、時間の問題だし、
それに賭けるのは、極めて危険な行為である。

ボストンには13時半に到着予定であった。
14時半にサウンドチェック。
19時45分にライブスタート。
今の時間は10時半。
さぁ、どうする。

今までの旅トラブルで培った全知識をフル活用させる。
飛行機は、雪と風に弱い。
その点、陸路には、雪のレベルにもよるが、まだチャンスがある。

電車しかない!

迷う事なく、タクシーで、45分程かけて、ペンシルバニア駅に向かう。
タクシーから、アムトラック(アメリカの新幹線)に電話をかけ、
チケットを予約。
12時の特急電車があるらしい。
これに乗り、順調に行けば、15時40分にはボストンに着く。
次は、プロモーターさんに電話。
サウンドチェックの14時半にはどうしても間に合わない旨を伝え、
時間変更を依頼し、16時に変更してもらう。

電車内では、気絶したように寝ていた。
途中起きて、窓の外を見て、驚いた。
真っ白な銀世界。
今の私には、雪景色を見て喜ぶ余裕は、ない。
通りかかった車掌さんに、ちゃんと時間通り着くのか聞く。
10分程遅れるけど、そんなに遅れない、との事。
ボストン到着。15時50分。
コンサート会場到着。16時。

なんとか間に合った。
安堵するプロモーター。
息つく暇もなく、サウンドチェック開始。
ここで問題児の私の相棒ノード君
(私がいつもピアノの上に乗せている赤いキーボード)から、
ストライキ発生。
電源を入れて、音を鳴らす。そうすると、いつもとは違う声を発する。
「きゅぅーきゅぅー」
まるで、もう疲れたよー、嫌だー、寝るーと言っているようだ。
その数秒後、いきなり電源が切れた。
その昔、ベルンでヒューズが飛んだときの悪夢がよみがえる。
ヒューズを確認。飛んでいない。
まずい。中身だ。基盤がだめになってしまった。
夏からほぼノンストップの過酷な労働に対するストライキだろう。

エンジニアの人に頼んで、中身を確認してもらう。
「ノード君。今年最後のライブなんだよ!?
ここまではるばる来たんじゃないの!?
あと1公演くらい、気合いで頑張れ!努力、根性、気合いだよ!」
必死の私の願いがノード君に届き、
(というより、優秀なエンジニアの技術により)、
ノード君が息を吹き返す。
「おぉ!電源がついた!」
みんなで喜ぶ。
さすが、私の相棒。ただで転んでしまっては困るのである。

そんなこんなで、気づいたら、17時半。
開場が18時。
夕飯を食べ、ステージに備える。

この日のライブは、2セット。
20時からの回と、21時半からの回。
火事場の馬鹿力とはこの事で、
24時間の移動の疲れが嘘のように、ライブに集中できた。
21時半からの回の時ようやく、
ここバークリーに戻ってきて、
プロとして演奏している事を、エモーショナルに感じ取る事ができた。

ここで初めて自分のライブをしたのは、7年前。
まだ、学生だった時だ。
その時、ライブで1曲目に弾いた曲が、
「トムとジェリー」だった。
いろいろ思い出したら、急に、その曲が弾きたくなり、
急遽演奏する事を決めた。
「トムとジェリー」は、楽しいはつらつとした曲で、
涙を浮かべるような曲ではない。
だけれど、今回この曲を弾いた時、いろいろな思いがかけめぐって、
感情的になってしまった。

学生の時、世界でライブする生活を夢見て、
ここで演奏した事。
はじめて、ここで演奏した時、
「ここがスタートだ、やるぞ!」と、鼻を膨らませて心に誓った事。
自分との戦いの原点。
あれから、様々な戦いを経て、私は、原点の舞台に戻った。
これだけ大変な旅をして、来た甲斐があった。
私の心が得たものは、大きい。

演奏が終わり、ホテルに到着。
全体力と全精神力を使い切った私は、
隣の公園でせめてカウントダウンだけでも、と思い、
ぐったりエレベーターに乗っていたら、12時になった。
エレベーターの扉が開いたら、
ホテルマンが「A Happy New Year!」と言った。

今年も、新しい扉を、果敢に開けていきたい。
ドアが開く度、HAPPY NEW MUSICが待ち受けているのだから。

A HAPPY NEW YEAR AND MUSIC FOR ALL MUSIC LOVERS!!

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