2007年4日22日

「西と東、ライオンとウマ」

ロサンザルスに来た。久しぶりの西海岸だ。
アメリカは広い。日本はアメリカのテキサス州より小さいというのだから、
どれくらい広いかは、想像がつくと思う。
西海岸と東海岸は違う国と言っても過言ではない。
比較的1年中暖かい西海岸と、極寒になる東海岸では、
もちろんファッショントレンドも違うし、流行る音楽も違えば、生活様式も違う。
どちらかというと、東では、今まで聞いた事の無いような実験的な音楽が主流で、
西では、もっと聞きやすい音楽が主流となる。
気候と、車、このふたつが原因だと思う。
ロスでは移動手段が、ほとんど車である。
1年中暖かいロスで、窓を全開にした車で音楽をかけながら運転する時に、
人が聞きたい音楽は、実験的な音楽ではない。(まれにそういう人もいるけれど)
渋滞になっても、イライラしないような、気分爽快なスムースな音楽だ。
西の音楽は明るく、東の音楽はダーク。
私の音楽は、やはり東寄りになっている。

そんな私がロスに来た。
東海岸ではだいぶ固定のお客さんもついてきたけれど、
西海岸では、まだまだ、「ひろみって誰?」である。
今回は、4日間のクラブでの演奏。
初めてのロスでの長丁場である。
誰が見に来るのだろう?と首をかしげながら、クラブに入る。
ロスは場所的に、一番私の音楽が受け入れられにくい場所だから。

一日目。お客さんの入りは半分くらいだろうか。
空席が目立つなかでの演奏。
今までの、「空席との戦い」No.1は、2年半くらい前のナシュビルで、
500人くらいのシアターに、14人だった。
経験は人間を育てる。486人の空席を経験している私には、
こんなのお茶の子さいさいだ。
だって、それはマイナス486ではなくて、プラス14。
発想の転換である。
ここに来たお客さんをとにかくハッピーにする事に、集中する。
とりあえずこれが私の出したい料理なんで、食べてください、と
いつも通りの、西の人曰く、「変態的な」演奏をする。
予想に反して、来てくれたお客さんは大喜びで、
みんなスタンディングオーベーションをしてくれた。
ヨシ。

時々思う。
日本に住んでる時は、私はいってみれば草食動物だった。
生えている草を食べ、周りと争う事のない、穏やかなウマ。
大体、人とケンカをした事など一度もなかった。
あまり怒らない性格だし、自分が悪くなくて謝るのも、全然苦痛ではなかった。
しかし、この国に来て、ウマは肉食動物に食べられてしまう、と知った。
アメリカでビジネスをするという事は、ライオンでない限り、
やっていけないのだ。
戦う事は常日頃。
どうぞどうぞ、と譲っていたり、悪くもないのに、すみませんと謝ったりと、
日本式なやり方をしていたら、私は毎日ピアノを弾けない。
何かがうまくいかなかったら、徹底的に誰かを糾弾しないとならない。
私は、そのやり方が好きだろうか?はっきり言って好きではない。
でも、それがアメリカで仕事をするという事なのだ。

ほんとに相変わらず、この国では、日本では考えられないトラブルが多い。
しかも、どんなに相手に非があっても、謝らないケースが多い。
こっちも自分の必要なものをゲットしなければいけないので、
強気にならないといけない。ウマは食べられる。
今まで、ウマでいて、何かをゲットできた確率は、2%。
ライオンで、何かをゲットできた確率は、100%だ。
ライオンになるには、声はかなり低めに設定し、
電話でなく、直接交渉の時は、顔を見られると子供だと思われるので、
髪を貞子のように前に足らし、日本が誇るホラー映画キャラクターでの勝負だ。
ボクシングのチーンというベルが、頭の中で鳴り響く。
ライオン登場なのだ。

謝ったら負け。
悪くもないのに「すみません」という文化で育った私には、
本当にカルチャーショックな毎日だ。

毎日ライオンになって、私は何を得たいのか。
どんな理不尽な事が、旅で、クラブで起ころうとも、
それを演奏に反映させたら、今度はピアニストとして失格だ。
完全にマインドをフラットにしなくてはならない。
深呼吸をして、ネガティブな気持ちをすべて殺す。
そう。私が得たい物はただひとつ。
いい演奏でお客さんの笑顔を見る事。
だから、こういう嫌な事が続いた日に、
お客さんがものすごい笑顔になってるのをみると、
心から報われる。ありがたい笑顔だ。
笑う門には福来るのだ。

西海岸で1日目に半分だった会場。
一日目に来たお客さんが、自分のブログで宣伝してくれたり、
毎日違う友達を連れて来てくれたり、
ロスのコミュニティーサイトに書き込みをしてくれたりして、
毎日毎日、繁殖するように人が増えていった。
そして、最終日ソールドアウトになった。
見に来てくれたお客さんが、そこまで情熱をもって、
人に自分のライブを薦めてくれた事が心から嬉しかった。
何度も戻ってきてくれたお客さんもいれば、
日本のテレビをこっちで見て、来てくれた日本人のお客さん、
バンコクで私を見てくれて、お友達を連れてきてくれた人、
いろんな人の愛情に支えられた。
ありがたや、ありがたや。
本当にそう思った。
西海岸にホームができた。
今度来るときも、絶対来るからね!と言ってくれる人が、
たくさん増えた。

最終日、満面の笑みで総立ちのお客さんを見て、
ライオンで居続ける意味を見つけた。

サンフランシスコ空港に向かおうとした今朝、
タクシーが45分来なかった。危うくフライトに間に合わない所だった。
タクシー会社にライオンが抗議の電話を入れたら、20ドルもまけてくれた。
前世がウマだったライオンは、あまりこういった勝負に勝つ事はないけれど、
時々ラッキーになる。
今日は、このライオンの勲章20ドルで、豪華にタイ料理でも食べて、
明日からのブルーノートNY1週間公演に気合いを入れるとしよう。

PAGE TOP