2006年9日16日

「笑顔の旅」

人は大体時間をかければ、歩み寄れたりするものだけれど、
ひとりだけ、もう早4年のヘビーなお付き合いをしているにも関わらず、
分かり合えない人がいる。

「プロペラ君」である。

このメッセージにも何度も登場しているプロペラ君。
これだけ飛んでいるのに、全く慣れない。歩み寄れない。
プロペラ君に遭遇する日には、必ずいくつものトラブルがある。
プロペラ君に辿り着く頃には、疲れ果てているケースが多い。
今日は、NYは大雨。
そして西海岸にあるフレスノという街でライブの日だ。
早朝4時に家を出て、大雨の中、空港に辿り着いた。
ここまではなかなか順調だった。
チェックインの時も、ノード君の事を咎められる事もなく、
セキュリティーも、すいすい進んだ。
調子に乗ったその瞬間に、コトは起こる。
それが、世の常だ。

ベルトに全てのものを乗せ、
くぐる門もくぐり、荷物を待っていたまさにその時。

ガガガガガッ。

私の愛用している機内持ち込み用パソコンバッグのベルトが、
ベルトを降りた所にある、ころころっと荷物が下りてくるはずの坂の
最初のコロコロの間にはさまったのだ。
コロコロは壊れていて、完全に私のバッグをつかんで離さない。
二人掛かりで、引っ張ったが、引っ張れば引っ張る程、取れなくなる始末。
さらに二人セキュリティーの人達が来て、力づくで引っ張る。
そんなんじゃ、ベルトが切れちゃうよ、と思いながらも、
他に対処法がないので仕方がない。
おじさん達が力づくで引っ張り続けて10分以上が経過。
私の後ろに並んでた人からは、ブーイングの嵐。
マーティンは「See you in Fresno」と言い出す始末。

とうとう大きなレスラー級のセキュリティーガードがやってきた。
あぁ・・さよならマイバッグと思いながら、見ていると、
このおじさん、引っ張る事なく、
「ベルトを反対に回してみたらどうか」と言う。
反対に回した。
するっと抜けた!
力づくで解決するキャラかと思いきや、頭で解決したところに、
感動を覚える。

ゲートにたどりつく。ここでトニーから電話。
トニーは、今年始めに郊外に引っ越して、いつも空港で集合になっていた。
「ターミナルどこ?」

え!?
時は、もうフライト45分前である。

ひろみ「まだチェックインしてないの?」
トニー「運転してても、大雨で、前が全然見えなかったんだよ。」
ひろみ「とりあえずトニーが来るって事をゲートの人に伝えるね」
こう言って、電話を切る。
ゲートの人に言うと、
「45分前にはチェックインをクローズするから、
彼はこのフライトには乗れないわね」
「でも、今日が演奏なんです」
「時間通りにこない方が悪い」
ぐっ。ごもっとも。

今日のフライトは、ロス経由だ。
次のフライトを調べたら、ギリギリでコネクションに間に合う便があった。
これで、万が一乗れなかったとしても、希望は残る。

ゲートの前を行ったり来たりしながら、電話を待つ。
「乗せてくれないって!」とトニーから電話が入る。
「次のフライトなら、なんとかコネクション間に合うから、それに切り替えて!」
と迅速な指示を出す。
もうこの時点でフライト25分前である。
私も飛行機に乗り込んで、無事にフライトを振り替えてもらえる事を祈る。

それから待つ事15分。電話が鳴った。
「ゲートどこ?」
「は?」
「ひろみのゲート」
「46だけど」
「今行くからドア閉めないでって言って」

慌てて、ドアの方へ向かう。
アテンダントの人に事情を説明し、ゲートの入り口まで連れていってもらう。
出発10分前である。

トニーが、ゲートの所で事情を説明している。
「前のフライトに間に合わず、次のフライトにチェックインしたけど、
結局間に合ったから乗せてくれ」
ゲートの人は快く、元のフライトに戻してくれた。
機内に乗り込む。
乗り込んで、2分後、飛行機がスタート。
トニーが私の横に座っている。しばらくふたりとも呆然としている。
トニーが謝る。「これでも3時には出たんだ。」と釈明を始める。
私が、発した最初の一言。

「トニー天才!」

ここ何年も、ギリギリのコネクションや、
遅延などで散々寿命の縮む思いをしてきた私だが、
こんな作戦、思いつかなかった。
「もうチェックインはクローズしたので、だめです」と言われたら、
「そこをなんとか」と頼み込むのが、今までの方法だった。
しかし、次の便にさっさと振り替えた後に、元の便のゲートに走り、
現場で交渉するという方法をトニーはやってのけたのだ。
トニーグレイという男の頭のキレに感動した。

胃の痛くなるような午前5時-6時を過ごし、6時間フライトを終えた所で、ロス到着。
ここからフレスノという小さな空港に向かう。
小さな空港=プロペラ君の可能性が増える。
この法則は、数々の旅で立証されてきた。
そして、現れたプロペラ君。
羽根のところが、少し黒くなっていたり、汚れていたりすると、それだけで気になる。
マーティンは、飛行機が飛ぶ前に必ずお祈りをする。
私も、最近ファンの方に頂いた(ありがとう!!!)、
京都の「飛行神社」という神社の、航空安全お守りを手に握りしめる。
世の中の全ての神様仏様、一斉出動である。

私は、飛行機に乗ると、いつも自分の一生について考える。
大げさに聞こえるかもしれないが、事実である。
これだけ乗っているので、月に何回も考えないといけなくて大変だ。
滑走路で自問自答が始まる。
Q「やり残したことはないか?」A「たくさんありすぎる」
Q「前のライブには満足したか?」A「精一杯やったけど、満足していない」
そして、大切な人達の顔が次々と浮かぶ。
フライト中は、ブログ用の写真を撮ったりして、
気をまぎらわしてみる。
少しでも揺れると、慌ててお祈りだ。

そして、神様仏様に敬礼しながら、無事フレスノに到着。
今日は、カリフォルニア州立大学でのライブ2Days。
初めて来る街だ。
アメリカという国は広い。
西海岸と東海岸では流行も違う。
言ってみれば、違う国のようなものだ。
アメリカ全土に自分の音楽を広めて行くのは、長い道のりである。

誰も私の事を知らないだろうに、誰が来てくれるのだろう、と思っていたら、
思っていた以上に、お客さんが来てくださった。
そして、今日も、お客さん達の笑顔に辿り着けた。
帰ろうと外に出るとたくさんの人が待ってくれていて、
笑顔で拍手をしてくれた。
サンフランシスコから3時間半運転して来てくれたお客さんの多さに驚き、
80歳くらいのおじいちゃんおばあちゃんが、
「生きていてよかった」と涙してくれ、もらい泣きをした。
二日間連続で見に来てくれた人達もたくさんいた。
中には「明日のモントレージャズも見にいくよ、3日間ヒロミ漬けだよ」
と言ってくださるお客さんもいた。

お客さんの笑顔は、私の終着点であり、出発点である。
この笑顔が見たくて演奏を続け、旅を続け、
笑顔が見れると、また次の笑顔を目指して飛び立つ。
明日はモントレイ。
プロペラ君の予感はあるけど、仲良くやろうと思う。
また笑顔に出会えるかもしれないのだから。

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