2005年7日4日

「ロンドンへの長い長い旅」

モントリオールジャズフェスティバルを終え、
NYに戻った次の日、ロンドンに発つ。
ロンドン行きの便は、夜の11時半だったのだが、空港に着いたら
「チケットがオーバーソールドなので、席がありません。
ゲートで名前が呼ばれるのを待ってください」
オーバーソールドと言うのは、航空会社が時々起こす事態で、
おそらくキャンセルなどが出たときのために、
本当に用意できる席の数より多くの席を売って、
ギリギリまで満席で飛ぼうとする事で起こる事態である。
しかも、この日は7/2。
アメリカの独立記念日が7/4の月曜日という事もあって、
いわゆる連休なので、休みを使って自分の国に帰る人が多い。
空港は、この上ない混雑ぶり。

時間は夜10時半。飛んでロンドンに着くのは、おそらく午前11時頃。
サウンドチェックが5時からなので、このフライトに乗らないわけにはいかない。
ゲートでの必死の交渉も、
「席が空いたら名前が呼ばれるので、待って」と言われ、
「席が空かなかったらどうなるの?」と聞くと
「とにかく待って」
の一点張り。
「ビジネス・トリップ」という事を必死に伝え、ゲートで座る事約2時間。
数々の名前が呼ばれだす。
「マイケル・ジョーンズ、カタリナ・ジョンソン・・・・」
15人ほどの名前が呼ばれ、「今呼ばれた人達は、ゲートまで来てください。」
「ヒロミ・ウエハラ」呼ばれず。涙。

呼ばれなかったが、ゴリ押しでゲートに行く。
チケットを差し出して、「席がないと困る」と言うと
「はーい、他に呼ばれた人はー?」
完全無視。
全員呼ばれた人にチケットが配られたようなので、再びゲートへ。
「まだ名前を呼ぶの?それとも、これで終わり?」と聞くと
「呼ぶかも」
かも!?
プチッと何かが頭の中でキレそうになるが、
ここでキレて、意地悪をされ、飛行機に乗れなくなったら、大変である。
ゲートから離れ、何度も深呼吸。忍耐である。

「今日飛ばなくてもいいお客様は、明日の便に乗っていただければ、
500ドルのチケット割引券を渡します。」
とのアナウンスが入る。
あまり人の動く気配なし。確かに、せっかく空港まで来たのに、面倒なのだろう。
しばらくたって
「ディミトリ・ケイン、エレイン・ヴィトウス・・・・・」
さらに15人ほどの名前が呼ばれる。
ここまで来ると、合格発表でも待っているかのようだ。
神様仏様。

「ヒロミ・ウエハラ」またまた呼ばれず。涙。

ライブに穴を開ける事だけはできない。他の対策を考える。
もし、朝7時の便に乗れば、夜6時にはロンドンに着く。
サウンドチェックには間に合わないまでも、8時半開始のライブには間に合う。
ゲートでインターネットをし、他の航空会社の明日の航空券の予約状況を調べる。

そのときである。

「ヒロミ・ウエハラ、トニーグレイ」
(マーティンは他の便で、ロンドンに向かっていました)

「イエス!」
ワールドカップで決勝ゴールを決めた選手のようなガッツポーズでゲートに向かう。

晴れて席を手に入れる。
それにしても、後々考えてみれば、ちゃんと2ヶ月前にチケットを購入しておき、
2時間半前にチェックインしたのに、おかしな話だ。

飛行機に乗り込む。この時点で、1時間遅れ。
夜11時半出発の飛行機に乗れたのは、12時過ぎだった。
さすがに疲れが出たのか、ふと眠りに落ちる。
パッと目が覚めて起きる。1時間くらい経っただろうか。
ふと外を見回して、何かに気づく。

まだ地上。

時間をみると午前2時である。
なんでも、機体に何らかの問題があり、それを解決しているのだそう。
何度もアナウンスが入る。
「まだ問題が何かが究明できないので、究明でき次第解決し、
一刻も早い離陸を目指します。」
問題が何かもわかっていないらしい。
このまま、機体の問題がわからないので、
他の航空機が利用できるようになるまで飛べないなんて事になったら、大変。
どうにもならないので、ひたすら待つ。
こういうときの30分ほど長いものはない。
午前2時半。「問題が究明できましたので、今それを解決しています。」
午前3時半。「問題が解決できました。今から離陸します」

やっと離陸。
ロンドン到着午後3時。
頼りにしていたロンドンでの午前11時から3時までの仮眠がなくなる。

ロンドン到着。
税関審査。
「労働許可証は持っていますか?」
「こちらにプロモーターの方から送られていると聞いています」
「ちょっと待ってください。」

ロンドンに着いたんだ。いくらだって待ってやる!

「届いていません。」
え-!?
「プロモーターの連絡先はわかりますか?」

連絡先を教えると、別室につれていかれる。
トニーはイギリス人なのでラクラククリアである。

この税関の別室、何度が経験したが、
自分が外国人である事を思い知らされる一番の場所だ。
不安そうな外国人が列をなす。
民族衣装なんかを着た人達なんかが、さらに場所の雰囲気を盛り上げる。
携帯電話は使えない。外との連絡が一切取れない、
イギリスでもアメリカでもない場所。
名前が呼ばれるのをひたすら待つ。また合格発表待ちである。
30分くらい待っただろうか。

「ヒロミ・ウエハラ」
見事合格。

プロモーターと無事連絡が取れたらしく、解放される。
イギリス到着。ホテルにに到着したのは4時過ぎ。
すぐクラブに向かう。
サウンドチェックし、ごはんを食べ、演奏。

こういう時の演奏が、やけに盛り上がるのは、なぜだろう。
全身疲れて、ひとつのエネルギーも残っていないはずなのに、
お客さんの笑顔に出会い、ピアノを前にした瞬間、疲れが吹き飛ぶ。
こうやって待っていてくれる人達がいるから、
ああいった旅も乗り越えられるのだと。
席を確保してくれたのも、税関を通してくれたのも、
お客さんなのかもしれないと思った。

ロンドンのコンサートに日本の昔の友人が来てくれていた。
彼女の家と私の泊まっていたホテルがすごく近かったのもあって、
少しだけお邪魔したのだが、この時彼女が、
バテバテに疲れ、おなかがぐぅぐぅだった私にごはんを作ってくれた。
札幌出身の彼女による特製味噌ラーメン。
出来合いのスープを使うのではなく、ちゃんと味噌、豆板醤、コンソメなど
いろいろなものを混ぜて作った彼女のオリジナルスープである。
激ウマ!
なかなか家のラーメンでスープを飲み干す事はないが、これは飲み干した。
夜12時過ぎにロンドンで、これだけ美味しいラーメンが食べれた事のへの喜び。
バッドラックは必ずグッドラックに繋がっていると確信できた一日であった。
ゲートで名前が呼ばれず落胆していた自分に伝えたい。
「最後には美味しい味噌ラーメンが待ってるよ」と。

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